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No.3

クラゲの海風鈴

クラゲの海風鈴
00:00 / 04:50

cv(敬称略)

ナレーター:陽田旭

​ロミー:麻倉ひよこ

​フェイ:五月雨ふみ

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風鈴企画(敬称略)

主催:キツネ 

 

サムネイル:ぬゆ 

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風鈴の音がした。
突き抜けるような涼の音色は、乾いた夏空にとてもよく似合っている。
……ここが海の中でなければの話だが…
    
青い海を漂うのは、クラゲの形をした風鈴。
その不思議な音色に誘われて、泳いで来たのは幼いクラゲの兄妹でした。


「これ、なんだろう?」
「キラキラしててすごく綺麗だけど…

これもまた人間が海に流したモノなのかな?」
「うーん…あ!でもよく見ると体のカタチが僕たちと似てるよ。
だからこの子もクラゲなんだ!」
「え~?ほんとかなぁ?」
「きっとそうだよ!ねぇ、君はクラゲだよね?」

      
「…お兄ちゃん、なんて言ってるかわかる?」
「え、えっと……そう!僕クラゲだよって言ってる!」
「…ほんとに?」
「本当…だよ?」
「お兄ちゃん嘘ついてないでしょうね?」
「そ、それよりさ!このクラゲさんについてってみようよ!
どこに行くんだろうね」
「あんまりここから離れると、帰って来れなくなっちゃわない?
私遠くに行くのちょっと怖いよ…」
「ついて行くのは少しだけにするから大丈夫だよ。ほら行こう!」
「も~、しょうがないなぁ」

      
「…ねぇ、このクラゲさん、大丈夫?溺れてるように見えるよ」
「多分…泳ぐのが苦手なんだよ」
「クラゲなのに泳ぐのが苦手なの?」
「そう言うフェイだって、最近まで上手く泳げなかったじゃん。
すぐ波にさらわれちゃうからよく迷子になって…」
「もー!それ恥ずかしいんだから言わないでって言ってるでしょー!」     「いてて!ごめんごめん!」


流れ流れゆく三匹は小魚の群れを越え、珊瑚礁の虹を渡り、深い夜の色を沈めたような、果てない底を持った海の真ん中に辿り着きました。
遠くには荒波が見えます。


「少しだけって言ったけど、ずいぶん遠くまで泳いじゃった…

フェイ大丈夫?」
「うん、大丈夫!途中で綺麗なサンゴ礁も見れたしね!
また今度、お友達と遊びに来ようかな」
「心配だから、僕も一緒に行くよ」
「え~…」
「なんでそんなに嫌そうな顔なんだ…」
「ねぇでもお兄ちゃん、まだクラゲさんについて行くの?

向こうの方、危なそうだよ」
「あともう少しだけ…うわわっ!波が高くなってきた…!」
「ほら危ないよ…!もう帰ろう…!」
「う、うん。そうだね、帰ろうか…!

それじゃあまたね、ばいばいクラゲさん!」
      
   
引き返す兄妹を見送りながら、風鈴は相変わらず音の波を連ねている。
夏の日差しを反射する白い光は、夜になればその透明な体に星を映しきっと輝き続けてゆく。
クラゲの海風鈴はまた違う場所で、新しい出会いがあるのだろうと、
心をはずませながら、優しい音色を再び空へ響かせました。

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